応急危険度判定をする棟数は予め算定することができます~裾野市の例に学ぶ

被災建築物応急危険度判定制度というものがあります。
これは、何か法律に基づくものではなく、また、その判定結果にも強制力はない建築士を主としたボランティアによって行われるものです。
テレビで応急危険度判定の活動という映像を見た人にはそこまで理解が及ばないかもしれないのですが、あくまでボランティアによる活動なのです。
熊本地震においては、この応急危険度判定が個別の住宅の地震後の安全性について所有者が役所に電話でチェックを依頼するということが当初行われましたが、これは本来の応急危険度判定ではないものです(正確にはそういう方法もありますがごく例外的な対応であり、ましてや、全数を対象とするものでは決してありません)。
なぜそのような取り組みとなったのかと言えば、熊本県などが応急危険度判定制度についてよく理解をしていなかっただけなのです。
実は応急危険度判定で大切なのは、『二次災害を防ぐため』『短期間で実施する』ということです。
そのためには、市や町のすべての建築物を対象にするのではなく、対象物件を絞り込む必要があるのです。
例えば、今回紹介する裾野市の場合には、以下のリンクにあるように予め応急危険度判定の対象とする建築物棟数(当然どこに建物被害が起きるかも想定されています)を想定し、10日間以内で終了するという明確な目標を設定して取り組むこととしています。
被害想定というのは地盤の情報と建物の老朽度とのデータから求めていますので、相当程度実際の被害を正確に想定することが可能です。熊本地震でも地震被害の想定は応急危険度判定の対象を絞り込むのに充分な精度がありました。
被害想定を活用することは応急危険度判定を実施する対象物件や対象エリアを絞り込むのに必須のものです。

<対象エリアの絞り込みのイメージ>
応急危険度判定の調査対象.jpg

参考)被災時の建築物の応急危険度判定~裾野市の場合
http://www.city.susono.shizuoka.jp/kurashi/6/3/2740.html
ここに示されているように、
「駿河トラフ・南海トラフ沿い地震」/「相模トラフ沿い地震」について、それぞれ、
・市内における 判定対象建築物棟数    3,893棟  /   10,027棟※1

・市内における1日当たり必要判定士数 52人(26チーム)/ 134人(67チーム) ※2

※1 県第4次被害想定(平成25年6月27日公表)の第2次報告(平成25年11月29日公表)における、「駿河トラフ・南海トラフ沿い地震」と「相模トラフ沿い地震」の各ケースのうち裾野市において被害想定が最大となるものより算定しています。
 応急危険度判定対象棟数=(全半壊棟数×2.5倍-倒壊棟数)×(1-津波浸水割合)×(1-焼失率)

※2 判定士2名でチーム編成、1チームあたり1日15棟を判定、判定実施期間を10日間と想定して算定。

ということです。
この考え方の背景にあるのは、全壊と判定されたものについても相当数継続使用ができるものが残っている可能性があること。また、全壊の戸数の倍以上は半壊の建物も相当あるという考え方です。
さらに、応急危険度判定は震災直後に二次災害を防止するという目的のため短期間で実施する必要があることから、10日間のうちに実施し完了するという想定をしているのです。

応急危険度判定制度というものは、このように対象物件を限って短期間に行うものであり、建物の悉皆調査をするものではないのです。例えば二次災害の恐れがありそうな被害が集中するところに重点を置いて実施する必要があるものなのです。
地震の被害は市内全域に広がっている可能性がありますが、ぽつんと建物が建っているところよりも、まとまった建物被害が発生しているエリアの方が二次災害のリスクが高いというのは明白です。
熊本地震においては、このあたりを考慮しない全数調査的な体制で応急危険度判定が実施されてしまったのですが、今後はこの熊本のパターンを踏襲するのではなく、静岡県裾野市が公表しているような重点的な取り組みを行うことが重要です。
なお、応急危険度判定制度とは全く意味の異なる「罹災証明」については、建物の被害が軽視な「一部損壊」程度でも見舞金などが支払われることから、ほぼ市や町の全数調査になる可能性が高いものです。
ボランティアの仕事である応急危険度判定に時間と人を割くのではなく、行政が本来取り組むべき「罹災証明」のための調査に必要な行政のリソースをできるだけ早期に割り当てるということが災害の現場では非常に重要なのです。

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