内閣府の「防災に関する世論調査」は突っ込みどころがいっぱいなのです。

1月27日に公表された内閣府の「防災に関する世論調査」。
この調査は防災一般について問うた世論調査です。概要などもPDFで提供されています。
実は、耐震の観点から見ると、突っ込みどころが満載の調査となっているのです。

報道では、今回の調査は「住宅の耐震診断の状況」について初めて問うた調査だと紹介されています。そして、耐震診断を実施していない人が51.5%という数字が報道されています。

?半分近くも耐震診断をしているって?とすぐに疑問が湧きます。

まず、この調査対象を確認してみます。

そのためには、ホームページにある、調査票をみる必要があります。

3 調査票
防災に関する世論調査 平成29年11月(N=1,839)
https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-bousai/3_chosahyo.html

これを開いてみると、以下のようになっています。

F7〔回答票22〕 【住宅の建築年】あなたのお住まいの築年数は、このように分けた場合、どれにあたりますか。
(28.8)(ア) 1980(昭和55)年以前/(築37年以上)
(33.3)(イ) 1981(昭和56)年から1999年(平成11年)以前/(築36年~築18年)
(32.1)(ウ) 2000(平成12)年以降/(築17年以内)
(5.8)(エ) わからない

左の()内が%です。総数が1839棟ですから、1980(昭和55)年以前(正確には昭和56年6月より前ですが)については、28.8%だったということになります。
つまりいわゆる旧耐震の住宅の方は3割弱(529棟:数字は該当者ですが建物のことなので棟数としています)しか回答者の中にはいないのです。

ところが、概要において取り上げられているのは、全体の1839棟についての回答を集計して取り上げています。

現在、市町村などが耐震診断に用意している補助金は、基本的に新耐震より前(=旧耐震)の木造住宅などが対象であり、新耐震以降の住宅について耐震診断の補助金を出しているところはほとんどありません。あくまで、旧耐震の住宅について耐震診断をすることを促進しているのです。
つまり、基本的に昭和56年6月以降の新耐震以降に建てられた木造住宅については、特別に耐震診断をする必要はないのです。
従って、本来、「住宅の耐震診断の状況」を示すのであれば、この調査では(ア)1980(昭和55)年以前/(築37年以上)の調査結果について取り上げるべきものです。

これは、実は4 集計表から分かります。
https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-bousai/4.html
具体的には、以下。
集計表6(Q5)住宅の耐震診断の状況(CSV形式:12KB)
https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-bousai/table/PH2908006.csv

これから、PDFの概要の6ページを書き換えてみます。

                          公表の数字 → 旧耐震のみの数字
耐震診断を実施している(小計)            28.3% → 13.6%
・既に耐震診断を実施しており、耐震性を有していた   24.9% →  8.1%
・既に耐震診断を実施しており、耐震性が不足していた   2.0% →  4.0%
・既に耐震診断を実施しているが結果については分からない 1.4% →  1.5%

耐震診断を実施していない(小計)           51.5% → 74.1%

となります。ずいぶん数字が違うことが分かります。
しかし、この数字の方が見慣れた数字であり、現実をよく表しています。

それでは、内閣府はなぜ、わざわざ新耐震も含めた住宅の耐震診断の状況を調べたのでしょうか?
本来であれば、耐震診断をすることが必要な、旧耐震、つまり、調査票にある、

(ア) 1980(昭和55)年以前/(築37年以上)

の方にだけに聞けば良い質問内容です。
ですが、この世論調査では新耐震以降についても耐震診断の実施の有無などを調べているのです。

そして、結果として、

(33.3)(イ) 1981(昭和56)年から1999年(平成11年)以前/(築36年~築18年)
(32.1)(ウ) 2000(平成12)年以降/(築17年以内)

といった新耐震以降の住宅についても数多くの耐震診断がなされていることが明らかになっています。
この結果を見ると驚かざるをえません。
何と2000年以降の新耐震の住宅について、49.3%とほぼ半数の人が耐震診断をした!という結果となっていることです。
本来、必要性の低い新耐震の住宅の耐震診断がこれほど行われているという恐るべき現実が明らかになったのです。
(必要性が低いだけで、耐震診断をすること自体に問題はありませんが、その解釈には十分注意が必要です。)

これが気になることの一つであり、これは結構大きな問題です。
政府はまずは旧耐震の木造住宅が大地震で倒壊する危険性が高いので対策を進めていることとどう整合をとるのか、という問題。耐震診断の数字が見かけ上良いほうが良いというのであれば、あまりに安易です。

じっくり見てみると、この内閣府の世論調査から様々な問題が浮かび上がってくる調査となっているのです。
次回はこの調査の耐震改修についても取り上げてみようと思います。

耐震診断をする前に2階で寝る.jpg

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